Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「……ええ。部長は……あたしを―――女として見ていますが、あたしを愛してくれてる。
あたし―――部…啓に守られてるんだ、愛してくれてるんだって思うと、何だかとっても安心できて」
守られてる。愛してくれている。
それは瑠華が前の結婚生活で忘れかけてしまった感情。
それを一つ一つ取り戻すように、瑠華はゆっくりと俺の手に力を入れ、真剣に俺の目を覗き込んでいた。
俺も瑠華の手をそっと握り返した。
君が失った一つ一つのもの、全部俺が君にあげる。
「不思議ね。啓は『愛してる』って言ったわけじゃないのに、
でも何でもない日常で笑い合って、じゃれあって。
コーヒーを奪い合うことすら、あたしには温かくて、とても楽しいんです。
ずっと忘れかけていた感情―――
それにほっとした。
啓が居てくれて―――良かった」
瑠華が一瞬だけ目を伏せて瞬きをしたが、次の瞬間は白い歯を見せて、零れるような笑顔で俺を見上げてくれた。
「大丈夫。俺が居るよ」
大丈夫―――
不安に思うことない。
俺が居る―――君の傍に居る。俺が守る。
犬のように纏わり付いて、面倒そうだけど、それでも笑顔で俺の相手をしてくれる関係。
君が望むなら、俺はどんなことでも、どんな小さなことでもしたい。
キスをしかった。
彼女を思い切り強く抱きしめて、
俺の香りで包み込んで―――温めたい。
その名を呼んで
「―――瑠華…」