Fahrenheit -華氏- Ⅱ



そのときだった。


「おなかすいたね~」


「冷蔵庫にプリン入ってたよね♪お客さんにいただいたもの」


と言って、同じフロアの広報課の女子社員たちが賑やかな声を振りまいて給湯室に入ってきた。


「あたし抹茶食べた―――…い」


女子社員たちはそう言ってコーヒーを奪い合っている(ように見える)俺たちを見て固まった。


俺だってびっくりだ。


瑠華も驚いてその場でそのままの動作で固まっている。


「え……?」


何でこのタイミングで!?


すっげぇいい雰囲気だったのに。じゃなくて!!


女子社員たちが目を開いて動きを止め、俺はと言うと……そのままの格好で、


やっべぇ!


たらぁー…


だらだらだらだらだらだらだらだらだら


思い切り冷や汗を流していた。


「お、お疲れ様です!」


女子社員の方が一足早く呪縛が解けたように慌てて頭を下げる。


「お!お疲れっ。抹茶うまいよね!俺も好きよ」


俺も慌てて瑠華から手を離すと、ぎこちない笑顔を浮かべてぎくしゃくと答えた。しかも勝手に会話に入ってるし。


隣で思い切り瑠華が白い目で俺を見上げてくるのが分かる。


「もっとマシな言葉が出てこなかったんですか?」と言われているようだ。


そして女子社員二人の怪訝そうな視線も……突き刺さって痛いぜ!


何てこった、啓人!女に注目されるなんておいしい状況なのに、ちっとも楽しめん!!


「…お疲れ様です」


瑠華が控えめに頭を下げて、それでも平然とした態度で再びコーヒーを飲む。


「す、すみません。お邪魔だったみたいで…」


女子社員の一人が慌てて言って、そそくさと冷蔵庫からプリンの箱を取り出した。


彼女たちの背中を見つめながら瑠華は、


「別に邪魔じゃありません。部長は誰に対してもこうなので、お気になさらず。と言うかあなた方も気をつけたほうが宜しいですよ」


お…お気になさらず、って……


「普通にひでぇよ!」


思わず素で声を上げてしまって、はっとなったが、


「あはは。確かにそうですよね~」


と女子社員たちは瑠華の咄嗟のいい訳に納得したようだ。



俺はなんだか納得いかないが。


でも


助かった??




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