Fahrenheit -華氏- Ⅱ
女子社員たちはどう納得がいったのか、プリンの箱を抱えて給湯室を出て行った。
「じゃあごゆっくりどうぞ」
意味深な笑顔を浮かべてちょっとだけ楽しそうに声を弾ませていた。
彼女たちの姿がフロアに消えるのを確認して、
「どうしよ!ねぇ気付かれたよね!ああ、明日には噂が社内中を駆け回り…」
俺は思わず瑠華に勢い込んだ。
「落ち着いてください。以前も同じフロアの広報二課の課長に疑われたとき、あなたあんなにあっさりとかわしたじゃないですか」
※「Fahrenheit -華氏- 」参照
『怪しいな~デートですか?』
広報二課の課長は俺より10も年上の妻子持ちで、しかし社内で不倫しているとの噂あり。
その課長に俺たちが揃って帰るとき、そう疑われたんだった。
『内緒にしていてください』
あのときはにっこり笑顔を浮かべてかわしたし、向こうも本気にしてない。
大体自分にやましいことがある人間は他人のそうゆう事情をあれこれ嗅ぎまわったりはしないのだ。
自分も調べられる恐れありだからな。
「だけど女子社員だよ?女って噂話って好きじゃん」
「噂はあくまで噂です。それに私たちは浮気をしているわけじゃありませんし、ましてや既婚者でもありません。
もし何か言われても、後ろ指差されるようなやましい関係じゃありません。
堂々としていればいいのです」
瑠華がきっぱりと、清々しく言い切って俺は目をぱちぱちさせた。
か…
かっこいいな、おい。