Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「それより打ち合わせの時間じゃありませんか?だめじゃないですか、先方をお待たせしては」
かっこいいけど、やっぱりお叱りを受ける俺。
「大丈夫、大丈夫。相手は裕二だし」
「麻野さん?」
じゃああんなに大げさに書くことないじゃないですか、目がそう語っていた。
「…そうそう。それでさ…」
俺は言い辛そうに目だけを上げると、瑠華の顔にそっと顔を近づけてひそひそと耳打ちした。
――――
――
第二会議室は『使用中』のプレートが掲げてあり、軽くノックをして入ると裕二が腕を組んでふてぶてしい態度で椅子に座って待っていた。
楕円形のテーブルの上に黒いスマホが出されている。
「遅いじゃねぇかよ」
「文句言うんじゃねぇ。こっちだって忙しい中わざわざお前なんかの為に時間を作ってやってるわけだからな」
ったく、何で俺がお前なんかの為に…
ぶつぶつ文句を垂れながらも、俺は裕二の隣に座った。
会議室は完全な個室で、扉も硝子製じゃないから中の様子が見られるわけでもない。
使用中のプレートを差し、中から鍵を掛ければ完全なる密室状態だ。
そんな中、裕二と二人きりという気持ち悪いシチュエーションにはげんなりするが、この際あれこれ言ってられない。
外では誰が何を聞いてるか分からないからな。
ここが一番安全だ。
ストーカー女もここまでは入って来れないし。
「と言うわけで、あの女に電話しろ。そして明日会う約束を取り付けろ」
そっけなく言って俺は裕二を睨んだ。