Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「あ、あのさ!急だけど明日暇?」
急に用件を切り出した裕二に、
『……明日?』と、女の方が訝しい声で聞いてきた。
「バカ!急過ぎる!」そう言う思いで俺は額に手をやり、慌ててメモに走り書きをした。
“今日のこと謝りたいから、話したいこともあるし、うちに来ないか?と誘え”
裕二の前にメモを滑らせると、裕二は素早くそのメモと同じ内容のことを喋り聞かせた。
若干棒読みになっているが、裕二に熱烈な恋をしている女は違和感を覚えなかったらしい。
『行っていいの!?』
「…う、うん」
女の勢いに、裕二が引き腰のまま苦笑い。
『でも話したいことって何…?』
急に不安になったのか女の方が探るように声のトーンを落とした。
裕二が困りきったように俺の方を見る。
俺はまたもメモに
“今は言えないけど、大事なことだから、俺の家でゆっくり話したい。
なるべく明るい声で「ゆっくり」と言うことを強調して言え”
そう書くと、裕二はまたもそれを読み上げた。俺の言う通り女に伝えると、
『うん!分かった!!』
女はさほど疑いを持たずにすぐ明るい声で答える。
夕方16時に来るように伝えると、『また明日ね~♪裕二、愛してる』と言って電話は切れた。
「「はぁ~~」」
俺たちは揃って、深いため息を吐くと、げっそりしながら椅子の背もたれに背を預けた。