Fahrenheit -華氏- Ⅱ
次から次へと。
「いいか、明日はお前ん家に15時に行くからな。それまでしっかりシュミレーションしておけよ」
俺はしっかり裕二に釘を差して、会議室を出た。
自分のフロアに戻ると、総務課に事務用品の発注を依頼しに行っていた佐々木は戻っていた。
まぁ、そう長々とこなす仕事でもないしな。
「備品発注してきましたよ。確認お願いします。クリアファイルを十冊に、朱肉を二個。あとカッターナイフを…」
佐々木は小さな箱から発注してきたものを俺のデスクに並べた。
「ああ」
と頷きながらもそれを流しつつ、俺は瑠華の方を気にした。
瑠華が小さく頷き、「メール」と声に出さずに口を開いた。パソコンを小さく指差し、用件がメールに入っていることを指し示していた。
俺はそれに頷き、
「これで以上です。大丈夫ですか?」と佐々木の言葉に慌てて顔を戻した。
「あー、大丈夫だいじょぶ。それぞれに配ってくれ」
と言いかけて、デスクの上に置かれたカッターナイフに自然目がいった。
俺はそのカッターナイフを握り、
「佐々木、これはお前の引き出しにしまっておいてくれ」とカッターを渡した。
瑠華はそのやり取りに気付いていないのか、こちらを少しも振り返らなかった。
そのことに少し安心する。
佐々木は不思議そうにまばたきをしていたが、すぐに俺に言われた通り発注したカッターナイフを自分の引き出しにしまった。
瑠華は今安定していない状況だ。そんな状態で、彼女の目に触れるところにこんなものを置いておけない。
きっちりとカッターが仕舞われるのを見届けて、
俺はパソコンのメールを開いた。