Fahrenheit -華氏- Ⅱ


そう決め込んで背筋を正していると、


「お疲れ様です。お先に失礼します」


緑川の声が聞こえて、俺はまたもブースの向こう側を覗いた。


俺の挙動不審な様子に佐々木が不審そうに俺をじっと見ているのが分かる。


が、佐々木はすぐにいつも通り仕事を再開させた。


緑川は席を立ち、あまり明るい表情とは言えない雰囲気でのろのろとフロアを出て行く。


…緑川…やっぱお前何かあった?


だって今日は花金(←死語??)だぜ?


俺の部署に居たときは誰よりも早く席を立ち上がり、まるでスキップしそうな勢いで出て行くって言うのに。





俺は益々“女性にしか相談できないこと”の内容が気になった。




しかも二村が絡んでるとなると―――見逃せない気がした。


瑠華も同じことを思っていたのか、少し申し訳無さそうに緑川の背を見送っている。


こうなりゃ明日の裕二のストーカーの件を早急に解決して、次に向かうべきだな。


解決には綿密な打ち合わせが必要だし~


と言う理由を付けて俺はまたも…




―――


「Yeah,(ええ)」


アメリカの企業と電話をしながら瑠華が六本木のマンションのエントランスホールをくぐった。


「おかえりなさいませ、柏木さま」


カウンターに常駐しているコンシェルジュが丁寧に頭を下げ、


「ごくろうさまです」瑠華は電話を中座しコンシェルジュに目配せした。


俺はと言うと…


「どうもー」


にこやかに愛想笑いを浮かべて彼女のあとをついて行くのが精一杯。





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