Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「Hi.Ruka Kashiwagi.(柏木です)」
慌しく電話を受け、だけど瑠華はすぐに目を開いて止まった。
「―――心音?」
相手は心音ちゃん?
瑠華は立ったまま顔だけを振り向かせて俺を見上げる。
その表情が一瞬だけさっきとは違う不安と言う感情で揺れていた。
それでも瑠華はすぐに前を向くと、通話を再開した。
「―――ええ、ちょっとクライアントかと思って。ごめんなさい。―――え?明日!」
今度は瑠華は、微妙だった表情をはっきりと驚きに変えて声を上げた。
自分でも思った以上に大きな声だと気付いたのか、瑠華は慌てて振り向くと
「すみません」
俺とコンシェルジュ二人を見渡して、小さく頭を下げた。
いや…大丈夫だけど。ってか心音ちゃんどうしたの?
送話口を手で覆って、瑠華は再び俺に背を向け
「明日なんて急過ぎる。どうしてもっと早く言ってくれないの」
とちょっと声のトーンを落として、
「あたしだって用があるのよ。明日はそう、大事な用が…。What!?……Yeah――分かってるけど…」
少しの間瑠華はそうゆうやり取りをして、何かを断っている気配だったが、やがて根負けしたのか、
「OK.分かったわ。また連絡して」
と言って諦めたように通話を終えると、ふぅとため息を吐いて額に手をやった。
「どうした?心音ちゃんと何かあるの?」
俺が瑠華を覗き込むと、
「Oh, my good.彼女明日の夜、日本に来るって。どうしましょう」
瑠華が困りきったような表情で俺を見上げ、
え―――
予想もしてなかった展開に、俺が一番戸惑った。
オーマイガッ!!