Fahrenheit -華氏- Ⅱ


瑠華はしばらくの間「んー」と唸るように顔を伏せて額に手を当てている。


やがて顔を上げると、コンシェルジュの方を振り返った。


「今日はプールの方ですか?それともお花?どちらにいたします?」


コンシェルジュがにこやかに返事を返す。


プール?花??何の暗号だよ。


ってか何?その、言わなくても理解し合えるツーカー(←死語??)な雰囲気は!


って、俺今日死語連発。


「花の方で。黄色をベースにしてください」


「かしこまりました」


コンシェルジュは頷き、俺は益々気になった。


「花?花をどうするの?今からじゃ花屋だって開いてないし」


俺が腕時計に目を落とすと、時間は夜の23時近くだった。


それでもコンシェルジュは手馴れた様子で、カウンターの向こう側で電話を掛けている。


どこに掛けてるんだ?


「4705室の柏木さまに大至急花を手配してください。黄色のユリ、カランコエ、ウィンターコスモス、指し色にマーガレット。カスミ草を」


電話を切るとコンシェルジュはにっこり。


「カランコエの花言葉は“あなたを守る”マーガレットは“真実の友情”。どうかお心穏やかにお過ごしくださいませ」


………


「ありがとうございます。相変わらず仕事が早いですねウチヤマさん」


ウチヤマ、何気にすっげぇな。


ってかウチヤマぁ!何気に口説いてるんじゃねぇよ!!


“あなたを守る”だとぅ!?瑠華を守るのはウチヤマ、お前じゃなくこの俺だ!


い゛ーーーっと威嚇していると、ウチヤマは気にせず余裕の表情でまたも受話器を取り上げた。






「追加です。一つ忘れていました。




カンナの花を柏木さまに」






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