Fahrenheit -華氏- Ⅱ
出かける準備が整った、昼頃――
「……ひ、昼飯どうする?」
気にしない…と言う態度を取れない俺。思いっきり動揺してるし。
瑠華は13時に
「何か作りましょうか?それとも外に出ます?」
俺の不審な態度も気にした様子を見せずにさらりと聞いてくる。
「た、たまには……そ、外に出ようか~」
緊張と恐怖(←こっちが本命)で声が裏返った。そんな不審過ぎる俺の態度にも
「いいですよ」
瑠華はまたもあっさり。相変わらずの無表情。
相変わらず何を考えてるのか全く分からん。
ほ、本当に何も気付かなかったのだろうか。
それとも何か気付いてもあっさりスルー?瑠華の中では大した出来事じゃなかった…とか?
或いは俺が計り知れない怒りをたぎらせている……?
どれだ!どれが正しい答えなんだ!一人悩んでいる最中も、
マイペースに靴を選ぶ瑠華はいつも通り。
結局一足の革のシンプルな黒色ブーツに決めて脚を入れている。こだわりなのか相変わらず華奢な10cmほどのピンヒール。彼女お気に入りのダイアナだろうか。
って冷静にブーツを分析してる場合じゃねぇって。
ぐわっ!分かんねぇ!
と、頭を抱えたい気分だったが、いつになくポーカーフェイスを浮かべるのに必死。
だが…俺ってどうも瑠華の前だと真面目な顔が出来ないみたい。
まるで出来損ないの仏像のように、変な風に表情を強張らせて彼女のあとを大人しくついていくしかできない。
しんと鎮まり返った廊下を歩くときも、エレベーターを乗り込むときも、住人の誰かとすれ違ったときも
俺はタイミングを見計らって、何かを話しかけようとしたが
不審過ぎる俺とは反対に相変わらず姿勢よくまっすぐ前を向いて歩く瑠華に―――
何かを話しかけることは
できなかった。