Fahrenheit -華氏- Ⅱ
地下エントランスホールにたどり着いてZ4に近づくと、俺は慌てて車の助手席の扉を開けて彼女を中に促した。
瑠華は怪訝そうな顔で少しだけ眉を吊り上げると、
「ありがとうございます。でも自分でできます」と言って助手席に乗り込むと、内側から
バタンっ
ちょっと乱暴な仕草で扉を閉めた。
……やっべぇ
瑠華が怒ってる確率…さっきまでは50%だったが、65%に上がった。
一気に100%に上がらなかった理由は、
瑠華が違う理由で苛立っている可能性もあるからだ。
ただでさえ裕二の厄介ごとに付き合うことを良く思ってないだろうし、その上あからさまなご機嫌取りみたいな俺の態度が気に食わない…
のかな…?
いやいや、瑠華の冷たい態度に今更ビビってんじゃねぇよ、俺。
いつもならわざと俺の指をドアで挟んでふっと冷たく笑ってるはず!
と、ブツブツ思いながら運転席に乗り込むと、
「私はそんな陰険なことしませんよ。やるならもっと堂々とします」
ときっぱりはっきり言われて、
「部長、今独り言全部漏れてましたよ?」と瑠華がまたも無表情に俺を見てくる。
ゲ
俺、最悪……
自ら90%程まで上げてしまった。しかも“部長”って…二人きりなのにその呼び方で呼ばれて、俺の顔が引きつった。
いやいや、たとえ90%でも俺が宥めて50%ほどまで押さえ込めばプラマイゼロ。
0%までさすがの俺も無理。てかそこまで下げられたら瑠華がアイスクイーンじゃなくなる。
あの身も凍るような冷たい視線で俺の体温を冷まして欲しいのに…って俺、やっぱ変態…
アブナイ妄想をしていてはいかん。事故る。
100%を通り越して120%だな。これ以上怒りボルテージを上げないため、ここからは一切のミスが許されない。
と、いつになく真剣な顔つきでハンドルを握る。
「相変わらずの百面相ですね」瑠華の視線は雪国の氷柱なみに冷たく尖っている。
まるでなめくじを見るような目つきに、すでにミスだらけなことに気付いた。
ぶるぶる震えている俺に(さすがにこれは怖い)気付いていないのか、瑠華はiPodを手に取り
「音楽掛けても?」と聞いてきた。
「ど、どーぞ!」
断ることなんてできない。
反対する理由もないが、何より今の俺は反論が許されない身だ。
クスン…瑠華ちゃん怖いよ…