Fahrenheit -華氏- Ⅱ



触れるだけの口付けだったけれど、互いの家以外でキスするのは珍しいことで―――


それだけで何だかもう腹いっぱい…じゃなくて胸がいっぱい。


瑠華の髪をそっと撫でると、彼女の髪からフルーツっぽいみずみずしい香りが香ってきた。


「あれ?シャンプー変えた?」


いつもは花のような香りなのに。


「いいえ、ドライヤー前のトリートメントは変えました。


今切らしてて」


そっかぁ。よくエクステだと勘違いされてるつるつるツヤツヤの髪を維持するのも大変なんだな。


「なんかさー、うまそうな香りだよね」


何とか口実をつけて瑠華の一部に触れたい俺は彼女の髪の一束をそっと手にとって毛先をくんくん鼻に近づけた。


「啓、変態っぽいのでやめてください」


瑠華に言われて、


「え゛!変態っ」


俺は慌てて手を離そうとしたときだった。



ぐぅ


俺の腹が盛大な音を立てて鳴った。


やっぱラブだけじゃ腹はいっぱいにならない↓↓


瑠華の髪からジューシーな香りが香ってきたから、その香りが腹の虫を刺激したんだな。



くすっ


瑠華が小さく笑って、


「どうします?あそこにホットドッグのキッチンカーが出てますけど」


瑠華が指差したのは、公園の脇に停めてあるいかにもポップなデザインのワゴン車。


確かにあそこからパンやソーセージ、トマトソースなんかの芳しい香りが香ってくる。


せっかく二人きりのデートだってのに何だか味気ないが、ま、たまにはアメリカのサラリーマンみたいでいいかもな。


「買ってくる」財布を手にして運転席から出ようとすると



~♪


瑠華の携帯の着信が鳴った。


瑠華は携帯を取り出し、目を見開く。




「啓…ちょっと待ってください。


緑川さんからです」




そう言われて、半分開きかけてたドアを閉め


瑠華はすぐに電話に出た。






< 473 / 572 >

この作品をシェア

pagetop