Fahrenheit -華氏- Ⅱ



「分からないわけないけど?」


俺は緑川の肩をぽんぽんと軽くたたいて、顔をそらした。


俺だって―――瑠華のことを何度も諦めようとした。


何度も諦めかけた。


女に関しては百戦錬磨のこの、お・れ、が!!


望み薄い女なんてすぐにやめて、手っ取り早い女と関係を持てば良かったのに…


てか振り向いてもくれない女なんて俺には必要ないし、


諦めるとか言っちゃうあたりどうなのかと思ったけど、


でも、




みっともなく彼女の前で足掻いていたのは



俺が



どうしようもなく彼女を好きだからだ。




今までのいい加減な遊び感覚の気持ちじゃなく



彼女に抱く気持ちがホンモノだったから。




俺はダイヤの原石を手に入れたんだ。



最初は道に転がっている石の一つだったけれど、それは磨けば磨くほど美しく


日を追うごとに愛しく



やがてキラキラと輝きはじめる。




そんなダイヤの原石を緑川も見つけたんだろう。


若い男に、まるで道端に転がすように捨てられた緑川は


オトコは顔と金、と豪語してダイヤを探すのさえ諦めていた。


でも


その後、ホンモノの恋に出会った。




それは俺にはホンモノかどうかは見分けがつかないが、


もしかして…いや、かなりの確立で精巧に作られたイミテーションだったとしても


そのイミテーションを愛する彼女を、俺は可愛いと思ってしまった。



だって緑川、



お前




今、ダイヤモンドのように輝いている。








< 483 / 572 >

この作品をシェア

pagetop