Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「もういい。俺が何か作る」
結局はそうなって、俺は裕二の冷蔵庫を勝手に開いた。
パカッ
冷蔵庫の中はこざっぱりとしていた。
数本の缶ビールに、チーズやハムと言ったつまみになりそうな食材が少々。
人んちの冷蔵庫の中身って結構気になるけど、裕二の冷蔵庫ってまったくそそられん。
何だよ、この寂しい食材はよ…
それでもその乏しい食材の中から
「お♪鮭入ってるじゃ~ん♪しかも荒巻、切り身だし♪」
“啓人はお宝を発見した”
RPGゲーム風に言えばこんな感じだな。
「啓人はこの鮭を使って料理することにした。
①鮭のクリームソース煮込み。
②鮭のムニエル。野菜あんかけ。
③鮭の炒飯
選択肢は三つかぁ…」
鮭を手にしたままブツブツ独り言を漏らしていると、
「クリームソース煮込みだな♪」
裕二が勝手に会話(ゲーム)に入ってきた。
「うまいけど時間も掛かるし、面倒だ、炒飯だな。炒飯」
裕二の意見を無視して冷蔵庫の中を眺めると
お、ラッキー♪
卵もあるし、運よくレタスもある♪
食材を調理台の上に取り出し、
「その鮭実家から送ってきたんだけどさー、どーやって食うべきか分かんなかったんだよな~」
裕二がキッチンカウンターの向こう側から身を乗り出し
「俺は炒飯にするね、ところで炊飯ジャーはどこ?」
俺はそれほど広くないキッチンをきょろきょろ。
フライパンや食器類は棚に仕舞われていたのか、こっちも妙にこざっぱり。
裕二は天井の戸棚から「炊飯ジャーはない。けど、これならある」
取り出したのはレンジでチンするタイプのレトルトご飯。
「………お前さ、普段どんな生活送ってんだよ」
「普段は外食だな、あとはカップラーメン」
そんなんで良く生き延びてるよ。
「てか綾子が作りにきてくれたりとかしねぇの?」
「あいつがそんなことすると思うか?」
裕二が軽く肩をすくめ
「お前ら色んな意味で大丈夫??」
俺の方が心配になっちまった。