Fahrenheit -華氏- Ⅱ



牛丼を食して、あたしたちは道路に面した灰皿の元タバコを口にしていた。


食後のあとの一服をしたいと言い出したのはあたし。


またも綾子さんは付き合ってくれた。


「は~ちょっと食べ過ぎた~」


綾子さんはおなかの辺りを押さえて苦笑い。


「あたしもです」


「柏木さんちゃんと一杯食べられたわね。私てっきり残すかと思ったのに」


「いつもは無理そうだったら啓へ渡します」


こないだは二人でイタリアンを食べに行って、“エビとアボカドのトマトソースパスタ”を食べたけれど


途中で食べられないことに気づいたあたし。


三分の一ほど残ったパスタが進まず、フォークにパスタ麺を巻きつけていると


『俺が君の考えてること当ててあげよっか』


すでに食事を終えた啓が向かいの席でにやにや。


『“もうお腹いっぱい”でしょ~?』


得意げになって言われて、


『瑠華の胃袋はうさぎみたいだな~』とからかわれた。


『啓、知ってます?うさぎは結構食べるんですよ?』


『え?マジで』


あたしの話に食いついてきた啓。


『知りません。啓にエビを残しておいてあげます。エビだけじゃ可哀想なのでパスタも一緒に』


さりげなく言ってあたしはパスタを避けた。


あたしの発言を疑うことなく啓は素直に頷き


『マジで?さんきゅ~』


と笑った。


そのことを綾子さんに聞かせると


「キャハハ!バッカじゃない、あいつ!騙されてやんの」


とお腹を抱えて笑い出した。


騙されてるのか、騙されたフリをしてくれてるのか―――


私にはどちらか分からなかったけれど、目の前でおいしそうに食事を進める啓を見るのが



幸せなのだ。






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