Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「大体、男性は“いっぱい食べる女子が好き”とか言うじゃないですか。
あれ、どうなんですかね。
モデルみたいに細い…綾子さんみたいなプロポーションの女性がたくさん食べるとギャップがあって興味が引かれるかもしれませんが
そうじゃない子がたくさん食べると“まだ食うの?”って目で見られるし」
呆れたように口からタバコの煙を吐き出すと
「柏木さんも言われたことあるの!??啓人、あいつ
乙女心を汚しやがって」
綾子さんは忌々しそうに唇を曲げたけれど
「違います、啓じゃありません。
元……彼…?から」
「オーランドから!!?」
綾子さんはさっきよりも驚いた様子で目をぱちぱち。
「オーランド…?」
「オーランド・ブルーム似の超!イケメンと付き合ってたらしいじゃない、柏木さん…」
綾子さんは言いかけて慌てて口を手で塞いだ。
啓……そんなことまで話したのね…
「オーランド・ブルームに似てません。オーランドに失礼です」
あたしは目をキっと吊り上げて綾子さんをちょっと睨むと
「私だったらオーランドの前で食事することになったら、きっと緊張で何も食べられないわ。
柏木さんて意外と大物ね」
「だからオーランドには似ていませんて。
二人の仲が冷め切っていて、仕事もプライベートもすさんでいたとき、一度だけ自棄になってあれこれ買い込んだ食事をテーブルに広げて食べてたんです。
そのときヤツ……ごほん、彼が
Your eyes are bigger than your stomach belly.
(食い過ぎじゃない?)
って」