Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「本当は分かっていたんです。変ったのは彼だけじゃない、あたしもだって」


具体的に何が変ったのかは分からない。


でも今それを言われたら



あたしはそれをきっと認めるだろう。



憎くて、憎くて、憎みきれないオトコ。


でも最近思う。


そうさせてしまった自分も悪い、と。


そんな男だと見抜けなった自分が悪い、と。






彼を変えられなかったあたしが―――




だから正直今も不安だ。


啓はマックスとは違う。


彼とは違うって分かってるのに、その不安がちらちらとあたしを刺激する。




あたしはタバコの先をじっと見つめた。


白い灰の間に赤い火種がちらちらと見えている。


「……さん、柏木さん?」


綾子さんから言われてあたしは、はっとなった。


「…あ、ごめんなさい…ぼんやりしてまして…」


小さく謝ると、綾子さんはあたしの手からまだ半分ほど残っているタバコを強引に抜き取り、黒く濁った水の入った灰皿に投げ入れた。


「疲れてる?大丈夫??買い物はやめてお茶にでもする?」


綾子さんに言われてあたしはゆるゆると首を横に振った。


「大丈夫です。すみません」


小さく謝ると綾子さんはどこか怪訝そうな顔をしながらも


「じゃ、行きましょうか♪」とすぐに明るい口調で足取りも軽く歩き出す。





傷つきたくない。



だから自分を傷つけるの―――








タバコを持っているとき心の奥底で囁いた自分の声。



少し乱暴とも言える仕草で綾子さんはタバコを奪い、



あたし―――何をしようとしたの……





急に不安になった。








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