Fahrenheit -華氏- Ⅱ



Webを開いて自然、検索項目の欄に『真咲 満羽』と指を走らせる。


ほとんど無意識に近かったと思う。何も考えず、ただ無心に―――


彼女がフェイスブックをやってるかどうかは分からなかったけれど、探してみるだけ……



「柏木さん?」



綾子さんの声で、はっとなった。


最後の文字を変換する手前で、私の手は止まった。


綾子さんはあたしの不自然とも呼べる態度にも、何も思ったようではなく、


「信号、変わるわよ?」


と、今、目の前でチカチカと点滅している歩行者信号を目配せ。


パチン


あたしはケータイを閉じて、前を向き直った。





「今―――行きます」





あたしは、何をやってるんだろう。


何をしようとしたのだろう。


個人情報が全く別の個人から意図も簡単に入手できる時代―――そんな時代が来るとは十年前は思ってもいなかった。


でも、悪用してはならない。


そう―――あたしのしようとしていることは悪用そのものだ。


不思議ね。あの男が―――マックスが隠し持っていた私書箱を発見したときにはこんなこと微塵にも思わなかったのに。


啓がこのことを知ったらきっと軽蔑するだろう。





―――それだけは嫌。




啓に嫌われたくない。


あたしはいつの間にか、こんなにも臆病になっていた。





あたしには



信じるしか





道がないのだ。






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