Fahrenheit -華氏- Ⅱ
約束の16時はもう目前だ。それにしてもこのタイミング……
出ようか出ないか迷った挙句、裕二から「出ないでくれ」と言う意見…と言うか懇願?を無視し、結局出ることにした俺。
だって綾子は今、瑠華と居る。
瑠華に何かあったんじゃないか―――そんな気がしてならなかった。
それをまずはじめに考えるのは『彼氏』として『恋人』として当たり前のことだろ?
「も……もしもし?」
何故か緊張で汗ばんだ手のひらでケータイを必死に支えながら、俺は恐る恐ると言う具合で電話に出た。
『あ、啓人?あんた今、どこ―――?』
と、綾子のくぐもった声の最初の質問に、俺は思わず裕二を見て、慌てて目を逸らした。
「どこって、外」
ハズレてはない。
綾子は瑠華と今、銀座の高級百貨店に居ると言う。遠くで品の良いJAZZのBGMが流れているが、綾子の声はどこか緊張を帯びていて、くぐもっている。
「てかお前、瑠華と買い物じゃないの?何だよ」
俺は自身のタグ・ホイヤーと裕二の部屋の壁に掛かった時計の間で視線を行ったり来たり。そんなことしたって時間が止まるわけでもないのに、いつ裕二をストーカーしている女が現れるかどうか分かったもんじゃない。
「綾子は何だって?」裕二がメモを寄越してきて、俺はそれに対して首を横に振った。
『柏木さんは今、ドレスをフィッティング中よ。それよりあんたに聞きたいことがあるの』
聞きたいこと……と言うのが何なのか気になったが、
それよりも!瑠華がドレスをフィッティング中!!あらぬ想像をして鼻血が出そうだった。
てか、俺も見てぇし!!
何が悲しくて野郎の部屋に二人きり↓↓
天国と地獄だな。