Fahrenheit -華氏- Ⅱ
裕二は俺の背後でビクビクとしながら俺たちの会話を見守っている。
「そんなのアイツの常套句なの。分かんない?
俺だって毎日毎晩囁かれてるんだぜ?」
言っててゾワワと鳥肌が立ったが、それを悟られないようことさら何でも無いように繕う。
「あいつの浮気癖はもうびょーきとしか言えないね。俺の知ってる限り四人…?いや、五人ぐらい。
前も会社の女の子に目をつけてしつこく付きまとってたの。
あ、言っとくけどあいつ女もイケるから。
俺は無理だけどね」
出るわ、出るわ。口から嘘八百どころか八千だな。
背後で裕二が『ぅおを!啓人!凄いなお前!』とキラキラ羨望のまなざしであっつい視線を送ってくる。
ゲイじゃなくバイだと知ったら余計に女が図に乗るかもしれなかったが、女と寝たと言う事実がある以上
オトコじゃないとダメって言う説の信憑性が欠けるからな。
「……一緒に…住んでるの…?」
案の定、俺の罠に掛かって女が怪訝そうに聞いてきた。
「いや?でももーそろそろ同棲でもしようかと考え中。そしたらアイツの浮気癖が治るかもって、な」
「出会いは…?」
俺の順を追った質問に、またまたイレギュラーな質問を返され、
出会い!??んなもん考えてないっつーの!
今更になって慌てふためく俺たち。何せもっと早く決着が着くと思ってからな。
「……会社の同僚」
「ナンパ」
俺と裕二の言葉……(あ、因みに同僚説は俺の方ね)が重なり、二人して思わず顔を見合わせた。
食い違ってんじゃん!
女はしたり顔で俺と裕二を交互に眺め、「ふ~ん」と口の中で含みのある笑みを湛える。
「違っ!最初はナンパだったけど、後で同僚だったって…気づいて!」
裕二があたふたと手を動かし説明するも
「会社ってあの広尾の?神流グループの本社?」
と、これまた一歩も二歩もリードしてる女に、ズバリ聞かれて、今回ばかりは裕二のナンパ説に任せるんだった!と後悔。