Fahrenheit -華氏- Ⅱ
裕二が立ち上がるより早く、ドタバタと廊下を掛ける足音が聞こえ…
て言うか綾子……足音すらも女っぽくないな、お前は。裕二も何でこんなオトコ女好きになったのか、マジで分かんねー。
修羅場になることはこの時点で覚悟した。
こうなったらいかに“被害”を最小限にするか!だ。
バタンっ!
リビングのドアをまるで蹴破るかのような勢いで入ってきたのは、
当然綾子で―――
その後を必死に瑠華がついてきている状態だ。
何故こうなったのか、は今確認してる暇はない。
「どうして電話に出ないんですか!」
と、瑠華が口パクとジェスチャーを交えて自身の白い携帯をふりふり。
綾子たちがインターホンを押さずにどうやって入ってきたのかは分かる。きっと裕二のヤツが綾子に合鍵でも渡してたんだろう。
リビングの入口に突っ立った綾子は
「啓人……やっぱりあんた裕二のところに居たのね」と座ったままの俺を軽く睨む。
俺は綾子が何か言い出す前に、謝る素振りで何とか苦笑を浮かべる。言い訳は一切聞き入れてくれなさそうだし、却って言い訳すればするほど悪い方向へ行きそうだったから、認める意味でも。
次いで裕二を睨み、そして―――床に座り込んだ見知らぬ女を見て綾子が怪訝そうに表情を歪めた。
「誰?」
当然の質問だよな。
綾子の手から握っていたであろう、鍵がスルリと抜けて
床に落ちた。