Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「裕二の恋人……?」ストーカー女が怪訝そうに瑠華を見やり
「証拠ならあります。これ麻……裕二さんが私にくださった合鍵です」
と、さっき綾子から取り上げた鍵を指でつまみ、ゆらゆらと揺らす。
「……じゃぁ…やっぱり裕二の恋人って言うあなたは騙されてたの……?それとも最初から全部演技…?
嘘だったの?あたしを騙したの!?」
女が怪訝そうに俺の方へ振り返り、
「はぁ!?啓人、あんたが、裕二の恋人!?てか誰よ、この女!」
せっかく瑠華が着いた嘘を台無しにするなよなぁ綾子ぉ。
「そっちこそ誰よ!!裕二はあたしの彼氏よ!」とストーカー女。
もう、修羅場どころかこれじゃ地獄絵図としか言えない。
誰かの血を見るのが簡単に想像できた。
「綾子、落ち着けって」
何とか宥めるように俺は立ち上がろうとしたが、綾子は表情を引きつらせて一歩後退した。
その節に背後にいた瑠華と軽くぶつかり
「柏木さん……あなたも知ってた……の?」
綾子が瑠華を見る目は不信感に満ちていた。
俺がとやかく言われるのは良い。綾子に何と言われようと、亀裂が入ろうと気にすることじゃない。
だけど瑠華は―――
綾子のことを本当に思って、最後の最後までしぶっていたのだ。
瑠華まで俺たちの一味扱いされるのはたまらなく嫌だった。
「もう辞めよう。
裕二、自分のツケは自分で払え」
俺は腰を上げた。