Fahrenheit -華氏- Ⅱ


俺たちの会話を耳に入れたのか、瑠華が時折心配そうにこちらを気にしている。


心音ちゃんの方もちょっと話が難航している模様。瑠華は少しばかり声を荒げていた。


「Wait!


Wait wait wait!
(ちょっと待って!)」


その間にも


「あたしが裕二の本命なのよ!」と女は泣きじゃくり


「はぁ!?何言ってンの!?」と応戦状態の綾子。


三人の女の声がリビングを満たし、こうゆう状況じゃなきゃ女三人に囲まれて幸せな状況だって言うのに何一つ楽しくない!


やがてストーカー女と綾子のやりとりを気にしていた瑠華が


「Shut up!



Come on!
(いい加減にして!)」


と、明らかにこちらに向けて怒鳴り声をあげ、一同が驚いたように目を瞠った。


久しぶりに聞いたぜ、本場もんの「シャラップ!」


瑠華……心音ちゃんと何があったって言うんだよ。いや…心音ちゃんじゃないか、こっちの方だよな、きっと…


瑠華は流れるように携帯を耳から話すと、まだ受話口から漏れ聞こえている心音ちゃんの声を無視して強引に通話を切った。


ストーカー女以外の誰もが息を呑んだ。


瑠華がキレる寸前のこの瞬間を目の当たりにした俺らは次に彼女がどう出るか、大体の予想が着く。





瑠華は何を思ったのかつかつかまっすぐこちらに向かってくる。


「はい!すみませんでしたぁ!」


もういっそ土下座でもする勢いで謝った俺をあっさりスルーしてその足取りを裕二に向ける瑠華。


何をするのか何を言うのかちょっとドキドキした面持ちで見守っていると


瑠華は突然裕二の頬を





平手打ちにしたのだ。




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