Fahrenheit -華氏- Ⅱ










「あなたは最低です」





瑠華は三回もぶたれてすっかり赤くなった両頬を撫でさすりながら唖然としている裕二を冷たく見据え、たった一言言い放った。


その瑠華の横顔をちらりと見たが、温度の感じられない冷たい瞳が裕二をじっと見つめている。


裕二は瑠華に打たれたことに反撃するわけではなく、ただただ呆然と瑠華を見やった。


裕二が幾ら理不尽なことをされても言われても女に手を挙げるヤツじゃないことは分かってはいたが、もし…瑠華に手を出そうものならこいつの腕を折るぐらいのことはやってのけた。


そのための準備もしていたが、それは杞憂に終わった。


「分かってる」と裕二は言いたげだったが、言葉は出てこなかったようだ。


再び沈黙が降りてきて、だが最初に言葉を切ったのはストーカー女だった。


「な……何するんですか!酷いわ!」


こんな状況でも攻撃された裕二の楯になろうと、裕二の前に進み出て両腕を上げる。


綾子は―――


ただ瑠華と、裕二を交互に見やっているだけだった。


「いや、悪いのは俺なんだ……だから柏木さんにぶたれても文句言えない」弱々しく、だがはっきりと裕二が呟く。


「でも裕二……」とストーカー女は裕二のことをひたすら心配している。


激しい思い込みや、迷惑な行為さえなければすっげぇいい女に違いないし、こんな一途に思われてちょっと羨ましかったりもするが。


でも、間違っていることを正すと言うのも


愛だと思う。






瑠華の突如の暴挙に何も言わない綾子のように。



また、自らの手をあげてまで正そうとする瑠華のように―――





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