Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「この際だからはっきり言います。あなたは遊ばれていただけ。
麻野さんの一晩のお相手に過ぎません」
瑠華はズバリ言い切った。
まぁ間違っちゃいないが……
「……違う…」ストーカー女が俯きながら弱々しく言葉を吐く。
「麻野さんがあなたに何を言ったのかは存じ上げませんが、そこに何の愛情もないのです」
瑠華の言葉にストーカー女の目にみるみる内に涙が溜まった。
「……違うもん」
「いい加減目を覚ましなさい。
あなたも酷いことをした男をひっぱたくなり、水を掛けるなりお好きにどうぞ。
でも、こんな人の為にあなたが泣くのは間違っています」
ストーカー女は瑠華の言葉を耳に入れて、裕二を不安そうに仰ぐ。
「ねぇ……この人の言ってること、嘘……だよね。
あたし、裕二に『好き』って言われたのよ。あれも全部嘘だったの……?」
「嘘……って言うかその場のノリみたいなものだ。
柏木さんの言う通り、君とは一晩の付き合いで流れで寝ただけ。
『好き』って言ったのも“あのとき”の俺には挨拶みたいなもので―――」
ごめん
裕二の最後の言葉は彼女に届いただろうか。
綾子は腕を組み、大きなため息を吐いた。
「そうゆう男よ、こいつは。昔は派手に遊んでたの」
「………嘘よ……だって…好きって言ってくれた…」
とストーカー女は裕二が吐いた汚い嘘に、どんな状況でも縋ろうとする。
「でも俺はたった一人大切にしたい人を見つけた。
彼女のことを大切にしたいし、一生をかけて守り抜きたいと思う。
彼女と出会って、本当の意味で“好き”だと言うのが何なのか気付かされた。
悪いケド、君の気持ちには応えられない」
裕二の告白を聞いて、女の目から大粒の涙が零れ落ちた。
「Lesson to me.
(いい?良く聞いて?)」
瑠華は女の両肩に手を置き、ことさらゆっくり言葉を紡ぎ出した。
「麻野さんは確かに過去はかなりの遊び人でした。でもたった一人、大切な人を見つけられた。
たくさん女性と関係を結んで、でも真実の愛を見つけた。
こんなクズ男でも出来ること、あなたが出来ない筈はありません。
あなたは何より
誰よりも愛情深い。
誰かを愛すること、それはとても大切でとても素晴らしいことだと思います。
だからあなたが悪いわけじゃない。
でも……だからこそ、その愛情を自分だけに向けてくれる人に注ぐべきだと思います」