Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「あなたは愛されたくて、愛されたくて―――ただそれを一方的に求めていただけ。
でも恋愛は『愛されたい』だけでは成り立たない。人を思いやる気持ちもまた“愛”なのです。
でも諦めないで。
先ほども言いました。あなたを愛してくれる人は、今後必ず現れます。
あなたが人を思いやることの大切さに気づいたら。
また人を好きになってその方を愛し、やがてその方からも愛される」
瑠華の言葉に女はとうとう、わっ!と大声をあげて泣き出し、しゃくりあげながらも瑠華を抱きしめ返した。
「―――あたしのように」
と言う言葉は、女の泣き声で裕二と綾子には聞こえなかったろうが
俺の耳元にははっきりと届いた。
そうだよ
瑠華
瑠華はまたもこの女に自分を重ねたんだろう。
本当はマックスに愛され続けたかった。
瑠華がマックスに対して思いやりに欠けていた、とは思わない。
ただ、儚い夢だったのだ。短い夢はあっという間に終わり、やがて目覚める。その後に待っていたのは温度のない現実。
けれどまた夢を見る。
俺、と言う夢を―――
けれど俺は夢を夢で終わらせるつもりはない。瑠華が目覚めたとき、そこはおとぎ話のような世界で満ち溢れさせていたい。
女は瑠華に抱きしめられながら、ひたすら嗚咽を漏らし泣きじゃくっていたがそれも数分後には落ち着いて、
涙が引っ込むと、瑠華の支えもありゆっくりと立ち上がった。
何をするのか一瞬身構えたが、女は大人しくバッグを手に取り、きちんと腰を折って
「ご迷惑を―――おかけしました。
申し訳ございません」
と一礼して、静かに立ち去っていった。
後に残された俺たち四人。まだ微妙な空気は払拭できていないが、これで一件落着??
と、思いきや
グスッ……
どこからか鼻を啜る声が聞こえてきて、誰かが瑠華の言葉に感化されて泣いていることに気づいた。
泣いているのは…
「柏木さん……ありがとう……」
裕二!!お前かよ!!
裕二は目元に手を当てひたすら感心したように瑠華に熱い視線を送っている。
おい!裕二ぃ!!瑠華は俺の女だ!!そんなむさくるしい視線送ってンじゃねぇ!!