Fahrenheit -華氏- Ⅱ
と、まぁ瑠華のおかげで何とか警察も救急車の御厄介にもならずに済んだから良かったが。
だが
「裕二。何で私に相談してくれなかったの。
それに啓人、やっぱり私を騙してたのね。柏木さんもグルになって。
信じられない」
と、今度は別問題が勃発!
綾子が額に手をやり目を吊り上げてる。
当然と言えば当然だよな。結果、綾子を騙す形になったわけだから。
「……ごめんなさい」
いくら俺と裕二から頼み込まれたからって、結局引き受けた責任を感じているのだろう。瑠華が目を伏せ眉を寄せている。
だが、瑠華が“グル”と言うことは断じて違う。
「言っておくが…」
と言い掛けた言葉を力強い裕二の言葉が遮った。
「違う!柏木さんは、俺が無理やり頼み込んで協力してもらっただけなんだ。
柏木さんは、最初から綾子に全部話すことを提案してた。最初から最後まで。
でも、『俺が綾子を守りたい』って言ったから―――」
綾子が目をまばたきさせて裕二と、項垂れている瑠華を交互に見やっている。
瑠華は唇を引き結びただ黙っている。今更何を言ってもいい訳のように捉えられるだろうと思っているのだろう。俺は瑠華から日本で親しい“女友達”と言う人間を聞いたことがない。
この国に来て気を許せる同性が綾子だった―――
そこには俺へ抱いた種類とは違うが確かに“愛”と言う繋がりがあった。
責任感の強い瑠華が、その唯一の存在である綾子を『裏切った』と思っているのだろう。
「本当のことだ」
俺はまだしゃがみ込んでいる瑠華の腕を取りゆっくりと立たせた。
「瑠華は最初から最後まで乗り気じゃなかった」俺が言うと、またも裕二が俺の言葉を追いかけるように被せた。
「綾子を守りたい―――
って言ったけど、俺本当は
過去の女を清算できなかった俺のことを知られると、綾子に嫌われると思った。
自分の保身で、柏木さんと啓人を
巻き込んだんだ。
柏木さんの言う通り、俺はクズ男だよ。
でも
そんなリスクを背負ってまで、俺が必要だと言うのなら
着いてきてほしい。
もちろん、『要らない』と言うのなら、それに応じる。
俺は綾子が
大事なんだ」