Fahrenheit -華氏- Ⅱ
時間は夕方の18:17を指していて、俺たちは慌てて車に乗り込んだ。
ここから成田空港まで通常なら一時間弱で行けるが、一回俺のマンションに戻って車を乗り替え、更に渋滞とかを考慮するともう少し遅れる。
くっそ!こうと分かってたら最初からエスティマにしたのに!(半分)デートだからって、かっこつけるんじゃなかったぜ。
いそいそと車のエンジンを掛け、とりあえずは裕二のマンションを飛び出るように出発した。
「ごめんね、心音ちゃんの電話途中で切るようなことさせて。怒って……なかった?」
車を運転しながらおずおずと瑠華の様子を見ると、瑠華はさっきのストーカー女にあれこれ言っていた激しい感情をすっかり仕舞いこみ、いつも通りの無表情で
「心音だって大抵時間にルーズなので、今更あたしを攻めるようなことはしません」
と、あっさりキッパリ。
そう…?それなら良かったけど……
「それよりも私はすぐに110番出来るように携帯を握りしめていたので、あれから心音からの着信があったとしても出ないつもりでした」
瑠華は携帯を開いて俺に見せてきて、発信画面に彼女が言った通り『110』の数字を見たときは感心すら覚えた。
110番……
やっぱり瑠華はデキる女だ。仕事では常に先回りして、それを見事にさばく程デキる女だが、プライベートでも変わりない。
俺はちょっと苦笑。
そこまで考えが及ばなかった。
「まぁあの場所に男性二人が居たので何とかなるとは思いましたが、万が一のことを備えて」
「助かったよ~。君のおかげで、まぁ何とかあの場が収まって良かった」
ほぉっとため息を着く間も与えられず
「ところで、緑川さんの様子はどうでした?」
と、次の質問がなされて俺はため息を途中で止める羽目になった。