Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「しかし、人事部にコネがあると言うことはどういうことでしょう。


麻野さんのデータをそこまで簡単に引き出せるとは、情報管理が甘いですね」


と、急に仕事モードONの瑠華サン。


まぁ、確かに??個人情報保護法って言葉、人事の人間なら当たり前に守らなきゃなんねぇだろ!


漏えいするとは、どうゆうことだよ!!


「まぁ、二村さんは色々人脈をお持ちのようですので、特に女性社員に対しては」


瑠華がちょっと刺々しく言い放った言葉に俺は頷いた。


なるほど二村は、認めたくないが甘いルックスに、女を手玉に取る術に長けてるからな。


あいつがちょっと甘い言葉をかけりゃ女の社員なんてイチコロだよな。きっと情報源は女子社員に違いない。


裕二の身長体重や血液型を知っていたのは、健康診断の結果が人事のシステムに管理されてるからだよな。


でも……俺はあんまり人事部に用がないから良く分からないが、確か主任以上の権限(まぁ社員証にもなってるIDとPW(パスワード))が無いと個人情報のデータを閲覧できない筈……


ってことは……!?




あいつ……間違いなく年上キラ―だな!




と、突っ込むとこそこじゃないだろ!と自分にノリツッコミをかます。


「裕二に人事のシステムを見直すように頼むよ」


「それが得策ですね」


さらりと言ったが、瑠華はどこか考えることがあるのだろう、少しばかり視線を険しくさせていた。眉間に刻まれた皺が不機嫌…なのか、はたまた別の感情なのか計りかねたが、俺はその深意を追求することはしなかった。


「しかし、もしそうなりゃ厄介だよなー。


二村のヤツ、あんな犬っころみたいな顏してやることえげつねぇな。何だか村木が可愛く見えてくる」


「村木さん……?」


瑠華が突如として引っ張られた名前に反応した。さっきの険しい表情を拭い去り、目を開いて


何か閃いたように慌てて顔をこちらに向ける。


ど、どーした!?


「村木さんですよ」


「あ、ああ……アイツがどうした?」


てかプライベートにまで陰険村木の名前を聞きたくもない、ってのが本音。早くこの会話を終わりにしたいが





「彼がキーマンです」




瑠華の言葉に俺は目をまばたいた。


まばたきするその一瞬に、この話が終わればいいな、と思ったが


瑠華の発言で、その考えが変わった。


「以前仰っていましたよね。銀座の会席料理屋に、神流派の瓜生常務と緑川派の鴨志田監査役が密会していた、と。


そこへ現れたのが二村さんと…」


瑠華が続けて





「村木―――……」





俺が最後の名前を出した。



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