Fahrenheit -華氏- Ⅱ
ギャァギャァ喚いている最中に、俺は桐島の手荷物を椅子から落としてしまった。
白い少し大きめの紙袋。中からピンクのふわふわしたものが覗いている。
「わり。落としちまった」
「いいよ。壊れ物じゃないし」
そう言って桐島は中身を取り出した。
どこかで見たことのあるうさぎのぬいぐるみだった。
「保険会社で貰ったんだ。生命保険の名義変更をしたついでに新しいプランを提案されてさ」
ああ、どこかで見たと思ったら、某大手保険会社のマスコットキャラのうさぎだ。
くりっとした大きなおめめに睫が二本飛び出ている。
「名義変更って?」
「受取人を親からマリへ変えたの。契約してたことすっかり忘れててさぁ」
桐島はのんびり言う。
「啓人、欲しかったらあげるよ?柏木さんにでもどう?」
そう言ってうさぎをずいと出す。
「マジで?喜びそ~」
と、手を出しかけたところで、はっ!となった。
「ダメダメ!好きだけど、ただでさえピヨコを溺愛してるから。こんなのが増えたら俺、構ってもらえないじゃん」
「ピヨコ?」
綾子が目をぱちぱち。
「去年の忘年会?で貰ったものを、瑠華にあげたらえっらい気に入っちゃってさ」
「で、お前の席が危ういんだ♪」
「オーランドの前にぬいぐるみにも負けてるじゃん!!」
裕二&綾子はケラケラと笑った。
人ごとだと思いやがって~!!