Fahrenheit -華氏- Ⅱ


ギャァギャァ喚いている最中に、俺は桐島の手荷物を椅子から落としてしまった。


白い少し大きめの紙袋。中からピンクのふわふわしたものが覗いている。


「わり。落としちまった」


「いいよ。壊れ物じゃないし」


そう言って桐島は中身を取り出した。


どこかで見たことのあるうさぎのぬいぐるみだった。


「保険会社で貰ったんだ。生命保険の名義変更をしたついでに新しいプランを提案されてさ」


ああ、どこかで見たと思ったら、某大手保険会社のマスコットキャラのうさぎだ。


くりっとした大きなおめめに睫が二本飛び出ている。


「名義変更って?」


「受取人を親からマリへ変えたの。契約してたことすっかり忘れててさぁ」


桐島はのんびり言う。


「啓人、欲しかったらあげるよ?柏木さんにでもどう?」


そう言ってうさぎをずいと出す。


「マジで?喜びそ~」


と、手を出しかけたところで、はっ!となった。


「ダメダメ!好きだけど、ただでさえピヨコを溺愛してるから。こんなのが増えたら俺、構ってもらえないじゃん」


「ピヨコ?」


綾子が目をぱちぱち。


「去年の忘年会?で貰ったものを、瑠華にあげたらえっらい気に入っちゃってさ」


「で、お前の席が危ういんだ♪」


「オーランドの前にぬいぐるみにも負けてるじゃん!!」


裕二&綾子はケラケラと笑った。



人ごとだと思いやがって~!!






< 54 / 572 >

この作品をシェア

pagetop