Fahrenheit -華氏- Ⅱ
二村は村木に利用されてる。村木に何か良いように言いくるめられて使われているだけ―――
と、考えていたが
―――果たしてそうなのだろうか。
村木に言いくるめられただけで、女を利用してまでのし上がろうとするだろうか。
今回の件で、二村にその行動力があり、また実行力があることをまざまざと見せつけられた。
「関係性が逆だとは考えられませんか?」
瑠華が親指と人差し指で作った二本の指をくるりと逆回転させ、
「逆?」
俺は間抜けに返した。
「そうです。二村さんは村木さんの立場を隠れ蓑として、
彼を利用している。
そう考えた方が妥当です」
瑠華の突拍子もない発想に、俺は
何故だか笑えてきた。
「あ~、ないない!それはぜってぇない!
だってあの村木だぜ!?裏でコソコソ動くのはあいつの専売特許だ。
村木が二村を利用してるんだって」
まぁ、一瞬俺もその突拍子もない構図を描いたが。
でも
「現にアイツが……村木がコソコソそれらしい話を携帯でしてたの、瑠華だって見たろ?聞いたろ?」
同意を求めるつもりで窺ったが、
「本当にそうなのでしょうか」
とたった一言。
「は?」
「村木さんのことですよ。彼は別の問題を抱えていて、そのことに気を取られている、と言う感じはしますが」
「別の問題ぃ?ま、あいつが問題抱えてても俺にはノープロブレムだがな。
俺たちにゃ関係ねぇ。
だけど、そいや、最近ピリピリしてるよな。緑川を派手に叱りつけてたし。
てか、もし別問題を抱えてたとしても、そのストレスを緑川にぶつけるなよなーって…思わない?」
「確かに……そうですね」
と、瑠華は歯切れの悪い返事。
よっぽど村木の“別問題”が気になっているのか、或は別のことを考えているのか
相変わらず精巧に創られた人形のように整ったその顔から
感情を読み取ることはできなかった。