Fahrenheit -華氏- Ⅱ
マンションに戻り車を乗り替え、それから会話は途切れ、車は首都湾岸線高速に乗った。下で行くと渋滞は免れないから上を選んだが、それでもやはり同じ考えの人間が多いのか、車は40キロのスピードしか出せずトロトロと前方車の連なりを見て舌打ちしたくなった。
この妙な沈黙が重い。
いつもなら俺はどーでも良いことを言っては、瑠華が適当に相槌を打つって感じなのに←それもどうなの??って思うケド
でも、今はその「どーでも良い会話」も出てこない。
さっきまで神妙に話し合っていた神流派だの、緑川派だの会社の派閥争いのことで悩んでいたわけではない。
かと言ってさっきの裕二の家でのやりとりを思い起こしているわけでもない。
心音ちゃんとのことでもない。
さっき綾子が電話で言ってた
瑠華の様子がちょっと異常に見えた―――
と言うことを考えている。綾子はあからさまに訝しんだり退いたりはしていないようだが、瑠華の様子を心配している、と言うことは確かだ。
瑠華は―――
何事も無かったかのように、俺に携帯を手渡してきた。
絶対に“真咲”の名前を見た筈なのに。
その後、ご機嫌を取り戻して「信じます」と言う言葉だってくれたのに。
でも、
彼女の言葉じゃなく、心が
―――追いついていないんじゃないか。
そんな風に思えた。
裕二の言葉をふと思い出す。
『綾子を守りたい―――って言ったけど、俺本当は
過去の女を清算できなかった俺のことを知られると、綾子に嫌われると思った。
自分の保身で、柏木さんと啓人を
巻き込んだんだ』
裕二の言葉で気付かされた。
俺……
俺がやってることも―――ただ瑠華を傷つけたくない、とかじゃなく
ただ自分の保身なんじゃ
葛西JCTを過ぎた辺りで、俺は口を開いた。
この後、心音ちゃんを迎えに行くから二人きりで喋れる時間が取りづらくなると考えると、今話しておかないといけない。
「あのさ…!」
「あの……」
俺と、瑠華の問いかけが同時に出て、俺は一瞬瑠華の方を見た。