Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「真咲さん…とは以前から面識があったのですか?」
瑠華が聞いてきて、今度は俺が大きく頷く番だった。
変だな。
少し前の俺だったら、俺のどんな小さなことも疑問に思って聞いてくれる瑠華に嬉しさを覚えていたのに、むしろもっと俺のこと知ってほしいとさえ思っていたのに、今はあの楽しさとか、ワクワク感が全く感じられない。
むしろ知られたくない。
俺は以前……大学時代にあいつと知り合って、何となく付き合うところから話しはじめた。
俺の言葉一つ一つに瑠華は丁寧に「ええ」とか「はい」とか短くだが答えてくれて、だがそれ以上の突っ込んだ質問はされなかった。
付き合いは一年程で終わったこと、終わりのキッカケはあいつの浮気で、
だが、それ以前と以後の出来事は伏せて置いた。
一番話さなきゃならない重要なことなのに、臆病な俺はそれが言えないでいる。
真咲が何故浮気したのか。浮気した後に100万せしめとっていった、とか。せしめとられた理由を問われれば、それを話さなければいけない。
嘘ではないが、意図して隠してるわけだから
結果、嘘になるんだろうな……
「……浮気……ですか…」
瑠華が「ちょっと意外」と言った感じでまばたきを繰り返している。
「まぁ俺らも若かったからな、あいつのほんの出来心だと思ってる。事実、俺は当時バイト三昧でろくに真咲を構ってやることができなかったから、あいつも寂しかったんだろうな……仕方がないっちゃないが」
そう考えたら、俺って心が狭いのかな。瑠華なんて元旦那のオーランド…もといマックスに浮気されまくりなのに、何度も堪えてきて。
まぁ結婚と、付き合いだったらレベルも違うし、生活もあるからなかなかすぐに別れることなんてできないもんだが。
うちの親父とおふくろも離婚の際は揉めたからな。
てか、よくよく考えたら俺も親父も似たような人生送ってたンだな。
仕事ばかりでパートナーを顧みず……
でも……俺は今、仕事もパートナーも同じだけ大事で。
どちらも失いたくないんだ。
親父のようにはならない。
「まぁ?その後、俺も派手に遊んでたからあいつのこと責められないケドね」
「まぁ、そうですね」
と、瑠華は冷たくてキツイ。
いつも通りの瑠華節!!!
何か安心するっ!!
って、俺……やっぱどM道まっしぐらじゃん。