Fahrenheit -華氏- Ⅱ



ジョシュア―――…


はじめて耳にする名前だ。マックスは次男だからつまり、兄貴であるジョシュアがヴァレンタインの次期総帥ってワケか。


「てか、過去形?」


笑っていいのか分からなかったが、何故だかそうするのが一番妥当だと思えた。


心音ちゃんはきっとそのジョシュアと言うオトコと別れたんだろう。


でも、ちっとも悲しそうじゃないし。


「そ。過去形。別れて……まだ数か月」


心音ちゃんは明るくキッパリと言いきった。


心音ちゃんにとってそのジョシュアとの別れは大した出来事ではなさそうだ。まるで拾った飼い犬が逃げ出した、けどまぁどこかで元気にやってるでしょ?的な感覚に思える。


心音ちゃんがワイングラスを傾け、一口ワインを喉に通して


「でもね、幾らあたしとMaxが未だに付き合いがあるとは言え、独りで参加するのは癪に触るワケ。


だってそのparty、Joshも参加するし、しかもアイツは富豪の娘と婚約したばかり。


悔しいからアクセサリーをね」


心音ちゃんはまたも悪戯っぽく笑って一台のノートPCを俺に見せてくれた。俺は閉じられたノートPCがほんのちょっと気になったが、その考えがすぐに吹き飛んだ。


心音ちゃんは「アクセサリー」だと言った。ネックレスやピアス、ブレスレットの類を探していると思っていたが見せられた画像は




何人かの男の写真だったからだ。






いや…


いやいやいや!



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