Fahrenheit -華氏- Ⅱ


はぁ~


ため息を吐いて、俺はバットを地面について腰を落とした。


「どうしたよ、啓人。今日は不調だな」


ベンチに腰掛け、スコアを付けながら水澤さんが不思議そうに首を傾けている。




「お疲れ気味かぁ」

「女と遊びすぎじゃね?」

「火遊びは程ほどにしておけよ~」



なんてメンバーのありがたぁいご忠告。


タバコの煙を口からも鼻からも吐き出しながら、みんなガハハと笑う。


足元に置いたコーヒーの空き缶を灰皿代わりに。その灰皿にはタバコの吸殻が溢れている。


全然スポーツマンシップにのっとってねぇな。腹出てるし…



「次決めなかったら、交代な~」


と水澤さん。


ちなみに水澤さんは桑田 佳祐にそっくりだ。腹が出てるけどな。


俺はゆっくりと腰を上げ、キャップを直した。


「大丈夫っすよ。風に戸惑うほど弱気な俺じゃないんで」by TUNAMI


この歌を聞くたびに「どんだけヤワよ!」って突っ込みたくなる。


まぁ見つめ合うと素直にお喋りできない、って言う部分は頷けるがな。


…って、そんなこと今はどうでもいい。


「は??」と水澤さんは頭に?マークを浮かべている。


俺は立ち上がるとバットを振り、素振りをした。


バットの先が風を切る音が心地いい。


「彼女がねぇ、俺を置いてアメリカいっちまったんすよ(泣)」


俺の答えに、ベンチが、ガタガタと鳴った。





「「「お前っ!!彼女居たの!!?」」」





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