Fahrenheit -華氏- Ⅱ
俺はちょっと水澤さんを睨んだが、サザン水澤はにやりと笑って、メンバーたちをつついている。
『動画が送られてきたんです。あなたの携帯から。すぐに電話がかかってきまして』
「ごめん。監督が勝手に電話して」
『いいえ。随分本格的なんですね。あたし啓が野球してるところ初めて見ました』
瑠華の声はどことなく弾んでいる。突然の電話に気を悪くしたようではないみたいだ。
「瑠華ちゃんって野球好きだっけ?」
『いいえ。全然』
チーン…
即答かよ。
『でも一度見てみたかったので。かっこよかったです』
俺は目を開いて、それでも瑠華に届くよう微笑を湛えた。
「ありがと」
「お~お~!嬉しそうな声出しやがって」
と、外野がうるさい。
俺はちょっとしかめ面でその場を離れると、声を落とした。
「調子どう?声は元気そうだけど」
この場合の調子ってのは“心の”ってことだ。
『ええ、大丈夫です。ご心配おかけしまして。薬も持ってきましたので』
「そっか。それなら良かった」
ほっと胸を撫で下ろしたとき、
『啓―――あたし……』