Fahrenheit -華氏- Ⅱ


瑠華が何か言いかけたとき、


「おーい!!啓人。ラブ電中悪いが、ミーティングだ」


水澤さんの声で俺は振り返った。


「ごめん、瑠華。また電話する」


『いいえ。あたしは今からシャワー浴びるので。またこちらから電話します』


シャワー…俺は野球場に突っ立ているノッポの時計を見上げた。


時計は午前11時半を示している。ニューヨークでは夜の21時半。


『色々遊びまわってたら疲れちゃって。すみません』


「いや。こっちが勝手に電話したわけだし。こっちこそごめんな」


『いいえ。ありがとうございます。嬉しかったです』




今度連れて行ってくださいね。




そう言って電話を締めくくられた。


今度……


絶対連れて行きますとも!!



「おーい!!啓人!」


ベンチでは俺を除くメンバーが輪を描いている。


分かったよ!今行きますってば!!


ラブ電を邪魔しやがって。


とは思いつつも、瑠華の最後の言葉を思い出し、俺はだらしなく表情を緩めて走っていった。





俺は気づかなかった。



さっきまでは抜けるほど爽やかだった青い空に、うっすらと暗雲が立ち込めているのを。





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