Fahrenheit -華氏- Ⅱ


バサバサッと何枚かの書類が床に散らばる。


「わ!やっちゃった」


「ったく、何やってるんだよ」


「へへ。すみません~」


二村は屈んで書類を拾い始める。何となくその場に居合わせた俺も書類拾いを手伝った。


屈んだ二村の襟元から、ネックレスのシルバーチェーンがするりと抜けた。


その先に光る何かがくっついている。





少しねじれたわっかのシンプルなデザインの―――指輪だった。




なんだ…


大事そうにぶらさげやがって。お前だっているじゃねぇかよ。本命が。


気づかないふりをするのも良かったが、俺は何故かこいつに声を掛けた。


「二村。リングが出てんぞ」


キスマークのお返しだ、バカヤロウ。


さりげなく言うと、二村は「おわっ」と声を上げ、慌ててそのリングをワイシャツの中にしまった。


「へへっ。内緒にしておいてくださいね~」


俺の嫌味にもへらっと笑顔で答える。


「別に。そうゆうものをつけてくることがダメって決まってるわけじゃねぇだろ」


「寛大な人ですね♪」


っつうかいちいち咎めるのがめんどくさいだけ。


「二村くぅん。コピーならあたしが…」


と甘ったるい声を振りまいて現れたのは、シロアリ緑川だった。


ったく、次から次へと…





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