Fahrenheit -華氏- Ⅱ
いつもの調子で、へらっと切り替えしてくるかと思った。
だけど二村は、こっちがびっくりするほど無表情だった。
ちょっとは堪えたってわけか?
何を考えてるか分かんねぇけど、俺には関係ない。
ざまぁ二村。俺だってお前にやられてばかりじゃねんだよ。
言うだけ言うと、俺はコピー機の吐き出し口からコピー用紙を取り出した。
「ペアリングって…部長買うんですかぁ?何で二村くんに聞くんですかぁ」と何も知らない緑川。その顔に、ちょっと険しい何かが浮かんでいたことをこのときの俺は知らなかった。
二村はバツが悪そうに顔をしかめている。
ふっふっふ。してやったり。
俺のささやかな反撃だ。
気分良く自分のブースに戻ろうとすると、
「ティファニーですよ」
と二村の声が追いかけてきた。
今度は俺が固まった。
「なんてね♪バーチャルペアリングですが」
上手く切り返してくる。やっぱりこいつは分からんねぇ。
「バーチャル…架空の設定でってこと??ティファニー?いいですねぇ♪あたしも好き~」と緑川がのんびりと言う。
「女の子って好きだよね」と二村は何でもないように切り返す。
ああ、好きだよ。
『ティファニーのアトラスが欲しいの。あれだったら啓人もつけられるでしょ?』
忘れかけていた
真咲の言葉がまたも蘇る。