Fahrenheit -華氏- Ⅱ
* Side Ruka *
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201X年。10月7日 AM8:00
ダウンタウンのグリニッジ・ビレッジは煉瓦造りの住宅街と、木々が生い茂る街路樹の緑が一際美しいエリアだ。
少し前はあたしもこのエリアにアパートを借りてた。
今は紅葉に染まる前のまだ青々とした緑の葉が煉瓦の建物に影を落としている。更に気温が下がって秋になるとここはセピア一色で埋め尽くされる。冬になると雪で白色に変化し、色彩豊かで自然が美しいエリア。
親友は地価や治安、経済状況、交通状況様々な点で考えを巡らせていたが、結局はこの折々に過ぎていく四季の美しさに見惚れて、この場所に決めたみたい。
四階建てのアパート。チョコレート色の煉瓦造りの壁に、白いタイル張りの床。
まるで映画に出てきそうなアパート。
あたしが彼女の部屋を訪ねると、
長い黒髪をぼさぼさ、メガネをかけた目の下に、クマをつくった尾藤 心音(ビトウ ココネ)がのっそりとドアから姿を現した。
「随分早かったのね」心音は眠そうに目を瞬かせている。
「ごめん。仕事中だった?」
「んーん。今終わったとこぉ」
ふわっと欠伸をして、心音はあたしを招き入れてくれた。
あまり飾り気がない玄関ホールの前を行く心音の影があたしの足元に伸びている。
166cmとすらりと高い身長に、モデルのようなしなやかな体。
今はこんな格好をしているけれど、本当はすごく美人。
きっと啓も気に入るだろうな…なんてぼんやり考える。