Fahrenheit -華氏- Ⅱ
元々マックスは心音が紹介してくれた。
と言ってもあたしを女としてではなく、取引相手として。
心音とマックスとは友人同士だった。
『Nice to meet you.Mr Valentine.(はじめまして、ミスターヴァレンタイン)What a pleasure to meet you.(お目にかかれて光栄です)I am a president of this company.(私がこの会社の社長です)』
握手を交わしたときに、マックスはびっくりしてあの綺麗なエバーグリーンの瞳を開いていたっけ。
『Well, what do you know.(いや…驚いたな)I did not know such a cute person to be a president. (こんなにキュートな人が社長だったなんてね)』
お世辞と分かっていても、あのときのあたしはまだほんの小娘で
その言葉が嬉しかったの。
「ねぇ心音。あの人と…マックスとは会ってる?」
部屋の冷気ですぐに冷えてしまった紅茶をあたしはゆっくりすすった。
まるであたしのマックスに抱いている気持ちみたいに、冷たく、味がなかった。
心音は口からタバコの煙を吐き出すと、
「最近は全然。数ヶ月前はあんたとやり直したいってうだうだ言ってたけど、最近大人しいから諦めたんじゃない?」
「諦めた…?」そうだったら良いのだけど……
心音は無表情にタバコを灰皿に押し付けると、くすぶった煙を消した。
「今度何か言ってきたら、彼氏ができたって言えばいいじゃない」
心音はテーブルに置いた写真を指で弾くと、あたしの元へ滑らせた。
あたしはその写真を手で止める。
「それはだめ。この人は神流グループの跡取りなの」