Fahrenheit -華氏- Ⅱ
あたしの言葉が何を意味するのか、心音は分かっているはず。
綺麗に整えた眉をひそめると、眉間に皺を寄せた。
「あいつが神流グループを潰しにかかるって?」
まさかそこまで…
と言葉を遮って、あたしは口を開いた。
まっすぐに心音を見据える。
「あの人ならやりかねない。手段を選ばない冷酷な人なの。ファーレンハイトを潰すのだって、あの人にとっては赤子の手を捻るようなものよ」
あたしの言葉に、心音はぐっと息を呑んだ。
「あんたもえらい男を敵に回したものね。
でも裏を返せば、それだけ今の彼氏を愛してるってこと?」
愛―――……?
なんて陳腐な言葉。心音の口から“愛”という言葉を聞いたのは初めてだ。
彼女はいつだってあたしより冷めていたから。
恋愛に溺れる自分が嫌。男のために人生を変えるのも嫌。
本気になったら負け。翻弄されるのではなく、翻弄する立場でいないと。
そうゆう自分だけの信念を持って生きてきた彼女だから。
でも……そうね―――
あたしが啓に抱く感情は、
まぎれもなく深い愛情だわ。