Fahrenheit -華氏- Ⅱ
その日、あたしは一日家でのんびりと過ごした。
積もる話もあったし、何しろ久しぶりに会ったママと一緒に居たかった。
こんな歳になっても母親って恋しいものね。
あたしは家族と離れていた間のことを喋った。日本での生活、新しい仕事。
恋人ができたことは―――言わなかった。
ママも突っ込んでは聞いてこない。
携帯が点滅しているのに気付いたのは11時半。
丁度一時間前に啓からメールが届いていた。
“帰ってきたよ~♪ おやすみ(^з^)-☆Chu!! ”
短いメールだったけど、あたしは思わず微笑んだ。
もう一時間も経過している。
電話をしたかったけれど、起こしてしまうのは嫌だった。
だから簡単に“おやすみなさい”と返信するだけに留めておいた。
夜になるとパパが帰ってきて、パパは嬉しそうにはにかみながら、お土産にあたしの好きな赤ワインをくれた。
今年55歳のパパは―――随分老けた気がする。
と言うか、髪がまた一段と寂しくなった??
小さいし、おなかも出てるし、どこにでもいる普通のおじさんだ。
あの素敵な神流おじさまと比べると、随分見劣りしてしまう。
パパは某車メーカーのニューヨーク支社長。忙しいだろうに、あたしの為に帰ってきてくれたみたい。
夕食は久しぶりに家族三人揃ってテーブルを囲んだ。
出てきたのはこっちの料理と思いきや、ほとんどが日本食だった。煮物だとか、天ぷらだとか。焼き鳥もあった。あたしの好きなごちそうばかり。
こっちの日本食スーパーで食材を揃えたらしい。
日本と違って約三倍もの値段がするのに、ママはあたしの為に奮発してくれたみたい。
それが嬉しかった。
「これ、おいしいね。もも肉?」焼き鳥を頬張りながら、あたしが聞くと、
「それは“せせり”って部位だよ」と日本酒で酔っ払ったのか、ご機嫌なパパが答えてくれた。