Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「せせり…」


「鶏の首のとこのお肉なのよ」とママ。


ぐっ…


あたしは詰まった。


『ピヨコが大きくなったらその部分は、“せせり”になるんだよ♪』


啓の言葉を思い出す。


啓~~~


思わずここに居ない彼を想像して、恨みがましく宙を睨む。


でも


彼の楽しそうな笑顔を同時に思い出して、怒るより何故だか笑い出したい気持ちになった。


「どうしたんだ?今日は随分楽しそうじゃないか」


パパが不思議そうに…それでも笑顔で首を傾ける。


「何でもないわ。ちょっと思い出し笑い」


パパとママは顔を見合わせて不思議そうにしていたけれど、あたしは心はぽかぽかと温かかった。


その晩は久しぶりに自分の部屋で眠ることにした。


7歳のときから結婚する19歳まで、12年間の間使っていた部屋だ。


六本木のマンションに比べるとベッドも小さいし、壁紙やベッドカバーも小花柄をしていて何だか少女に戻った気がする。



~♪



ふいに携帯が鳴った。


綺麗なメロディの“ムーンリバー”だ。





“月がきれいだよ(*^_^*)”




いつか啓があたしにくれたメールを思い出す。





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