Fahrenheit -華氏- Ⅱ


―――

マックスから一番最初に貰ったプレゼントはティファニーのデイジーキーペンダントだった。


鍵の形をしたペンダントトップ。その中にデイジーを象ったお花と、その中央にダイヤモンドがあしらってあった。


「Please open the key to the mind.(心の鍵を開けて)」


彼が囁いた愛の言葉もしっかり覚えている。


あたしが“ティファニーで朝食を”を好きだと言った翌日のことだった。


驚いたけど、同時に嬉しかった。




でも、遠い過去の話。





『ここ。俺の予約席だから』





啓がくれた愛の言葉。


あのときは、単なる口説き文句かと思った。


丁度、麻野さんとあたしを堕とすことを賭けていたことがバレて、その償いかと。


あの言葉が本気だったということを、つい最近知った。


『満席とか言われたときさぁ、マジでショックだったぁ』とこぼしていたっけ。


『くっさい台詞だったけど、あれはあれで精一杯かっこつけたから、余計にかっこ悪くてさぁ、裕二にはバカにされるし…』


そんなかっこ悪いところも



好き。





10月8日 AM11:00――



「~♪」


五番街にあるティファニーの本店を目の前にして、あたしはムーンリバーを口ずさんだ。




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