Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「こないと思うわよ?」
呆れたように心音を見ると、心音はにやっと笑って、
「んじゃあんたは“こない”って方で。あたしは“くる”ね♪」そう言って心音は名長財布から20ドル紙幣を三枚取り出した。
日本円で¥4,800ってところだ。
啓と麻野さんがあたしを賭けていたことを思い出す。
あたしはちょっと考え込んで、
「いいかもね」
と微笑み、答えた。
心音の言う通り、暗い話をしていたからどんよりと気持ちが重い。
啓の話題で盛り上がれたら、何となく心が軽くなる気がしたの。
ホントは声が聞きたい。すぐ傍に居て欲しい。
心音と進めている計画を全部ぶちまけて、彼に止めて欲しい。
だけどそれはできない。
ファーレンハイトのためにも。
多くの従業員のためにも。
あたしは腕のタトゥーのある場所にそっと手のひらで触れた。
マックス―――
あんたに奪われたものをあたしは必ず取り返す。
必ず―――ね……
そのために何かを犠牲にしなければいけないことを、
気づいていたけれど、気づかない振りをした。
あたしは賭けをしたけれど、心音が勝てばいいな。と思っている。
だってそうすれば
特別な用がなくても、彼とお喋りできるでしょう?
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