髪の短い天使
そう、兄さん……須藤幸太郎と。
私は、思わず物陰に隠れた。なんでかは、わからない。
体がとっさに隠れてしまったんだ。
「やあ。」
兄さんと麗ちゃんの会話は、耳によく聞こえた。
「……こんにちは。」
麗ちゃんは行儀よく頭を下げる。麗ちゃんの前髪は、右に綺麗に別れていた。
「えーっと、麗さんだよね?」
麗ちゃんは、頷く。
私は、心のどこかで思っていた。麗ちゃん、逃げて。兄さんの話を聞かないで。
「美幸は、学校でどう?」
麗ちゃんは、兄さんのいきなりの問い掛けに少々戸惑う。
麗ちゃんは、元々人と話すのを得意としていない。
少し治ってきたせいか、忘れていたが、麗ちゃんは一人がいい症候群だった。
今でも、私といる以外は、ほとんど一人。
「あ、あの……上手くやっていると思います。」
そんな麗ちゃんを見て、クスッと笑う兄さん。
いつも、いつもあの笑いに苦しまされてきた。
「そう。それは、良かった。いやね、ほら美幸、頼ちゃんのこともあったでしょ?それで、大丈夫かなって思って……」