髪の短い天使
「じゃあ、なんて呼んだらいいの?」
麗さんは、下を少し向いて、うつむきかげんで、小さな声で言った。
「……麗」
麗。
呼び捨てか……
「うーん。じゃあ、麗さんが先にその敬語をなんとかしてくれたら、いいよ。」
少し、意地悪をしてみる。
「あー、それはずるいっ!幸太郎さん、私が敬語をなかなかやめられないとか、思ってませ……思ってるでしょ?」
どうやら、僕が麗さんのことを、“麗”と呼ぶ日は、まだまだ先のことだろう。
「まあまあ、さ、行こうか。遅れちゃうよ?」
麗さんは、頬を脹らませて、納得いかないと言わんばかりに、顔を真っ赤にしていた。
「……麗。」
小さい小さい声で、呟いてみた。周りの音などでかき消されて、きっと聞こえないだろう。
僕たちは、少しずつ変わっていく。
美幸も、麗も、僕も……
「何?幸太郎さん?」
ニヤニヤしながら、こちらを見てくる。
すごい耳だ。
やっぱり、麗はすごいんだな……
美幸が、あの美幸が好いている理由がわかる。
「何、一人でニヤけてるの?」
僕たちは、少しずつ変わっていく。