ときめきパラノイア


この場にいる全員がもし大島先輩を見ていたとしても、
私は真柴先輩を見ていた。

ボールを目で追って、
スムーズに先輩の体が反応していく。

パスを受け取って、ドリブル―――。


スポーツの事はなんにもわからないけれど、
この時だけは世界のすごい大会を見ているような気持ちになった。

いつもどおりの無表情で、ボールを運ぶ。
あっという間にゴールが近づいた。


「優人!」


私の体はびくんと反応した。
大島先輩が真柴先輩の下の名前を呼んだから。


私が呼ばれたわけでもないし、私は真柴先輩のなんでもない、だけど―――。


一人をかわし、真柴先輩がゴール下に詰めた大島するりとボールを回す。
受け取った先輩がいとも簡単にボールをゴールに叩き込んだ。

綺麗なダンクを観たギャラリーはわっと大いに盛り上がる。

チャイムが鳴った。
大島先輩のチームが勝ったのを見届けた観衆は、また盛り上がって手をたたく。


バスケをやっていた人達も、床に放り出した制服の上着を拾いにいったりしていた。


「今度から大島のいるチームハンデつけようぜ」

「だよなぁ、何故か大島のチームに優人もいるし。勝てるわけねぇわ」


その話を私は盗み聞きして、胸を高鳴らせる。
もしかして、3年生の間では真柴先輩がバスケうまいって皆知ってるのかな?

当の本人たちは、また何か話している。
ギャラリーが散り出すのに、私はそこから動けなかった。

ここからじゃ先輩たちの会話は聞こえない。

大島先輩が何か言って笑う。



あ――――笑った―――――。



「………っ」


声が出せないままチエちゃんの制服の裾をぎゅっと掴んだ。


初めて、見た……。真柴先輩の笑った顔……。


< 10 / 18 >

この作品をシェア

pagetop