ときめきパラノイア
「さ、さよならっ」
ドアの所まで逃げるように走って、
そのまま飛び出そうかと思ったけれど、
何故か私は立ち止まって振り返った。
もう何にもおかしくないようにいつもの顔に戻った先輩が、振り返った私に気付いた。
ほんの少し、口許がほころんで、
先輩はゆっくりと言った。
「さよなら。転ぶなよ?」
どくん、どくん。
私は頷いて、図書室を出た。
スカートが跳ね上がるのも気にせず、また廊下を走る。
先輩と何かあると、走らずにいられなくなるのかな?
もう、いろいろ知っちゃった、私の知らなかった先輩!
自転車を引っ張り出して、またがる。ペダルを踏む力がうまく入らない。
『デコ、見せてみ』
『大丈夫みたいだよ、おでこ』
『さよなら。転ぶなよ?』
ひとつひとつ丁寧にリフレインする。
あれが全部、私に向けられた言葉だなんて、まだ信じられない。
気持ちがふわふわする。
私の人生のミラクル、
もしかしたら今ので使い切ってしまったかもしれない。